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「営業秘密」流出と転職先のリスク

当サイトでも何度か書いておりますように、従業員の転職に伴う「営業秘密(技術ノウハウや顧客データなど)」の持ち出しは、企業にとって重大なリスクとなります。持ち出された企業はもちろんですが、転職先となった企業にとってもリスクとなります。

このような問題が現実になった例として、大手通信会社ソフトバンクの元社員が、競合である楽天モバイルへの転職直前に5G等の通信ネットワークに関する機密ファイルを不正に持ち出したとして、ソフトバンクが元社員と転職先企業に対して計10億円の損害賠償などを求めていた事件があります。

この件について、東京地裁は、2026年3月26日、元社員個人に対して約250万円の賠償を命じる一方、転職先企業(楽天モバイル)に対する請求はすべて棄却する判決を言い渡しました。各種の報道からご存じの方も多いかと思います。

現時点(2026年5月23日)では、裁判所ウェブサイトなどで判決文が公開されていないので、詳しいことは分からないのですが、報道によれば、元社員が知人に「機密情報を持ち逃げした。ガッツリやりましょう」といったメッセージを送っていたことなどから、「不正な利益を得る目的」があったとして個人の賠償責任を認めたということです。これは分かりやすいのではないかと思います。

一方で、なぜ転職先企業の責任は否定されたのでしょうか。不正競争防止法上、他人が不正に持ち出した営業秘密だと「知りながら(悪意)」、または「重大な過失によって知らずに(重過失)」その営業秘密を取得・使用すると不正競争行為になります。

今回の判決では、元社員が楽天モバイルの従業員らに対して取得の経緯を明らかにしていなかったことや、楽天モバイルが情報持出しに関与したこともうかがえないことなどから、同社の行為の違法性を否定したということです。このあたりは、判決文を読んでみなければ分からないのですが、少なくとも、ソフトバンクの営業秘密であることを知って(あるいは重過失で)その情報を取得したということはないようです。また、その営業秘密を楽天モバイルが使用したということもなかったということと思われます(このあたりは推測ですが…)。

ただ、いずれにしても、中途採用などで転職者を受け入れる際には十分な注意が必要であることを再認識させる事件だと思います。今回の判決は転職先企業の責任を認めていませんが、訴訟に巻き込まれるだけで多大な訴訟費用やレピュテーションリスクを負うことになるからです。もちろん、敗訴したときには、多額の損害賠償金を請求されることになります。

自社の秘密を守る「流出防止(退職時の誓約書整備やアクセス権限管理)」はもちろんですが、中途採用時に「前職の秘密を絶対に持ち込まない」ことを誓約させる採用プロセスの構築など、「混入(コンタミネーション)防止」の体制づくりが極めて重要です。採用面接などで前職での職務内容を確認するとともに、誓約書などを取り付けるのがよいと言われています。また、場合によっては、転職希望者の同意を得て、前勤務先に秘密保持義務の内容などを照会するということも考えられます。また、採用後も前勤務先と同じ業務に従事させるかどうかを慎重に検討すべきでしょう。

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