2026年6月11日にサッカー・ワールドカップ北中米大会が始まりました。日本代表の活躍にも期待したいところです。日本代表の試合を皆で楽しみたいという方もおられると思います。パブリックビューイングやスポーツ・バーなどで中継放送を流したいという方もおられるかもしれません。そこで、今回はこのような場合に問題となり得る法的問題について考えてみたいと思います。なお、いろいろなパターンが考えられますので、ここでの検討は一つの参考としてお考え下さい。
まず最初に気になるのは著作権の問題ではないでしょうか。対象について、①スポーツの試合そのものと、②スポーツ中継の映像とに分けて考えてみます。①スポーツの試合そのものは、原則としては、思想感情の創作的表現とはいえないので著作物性はないとされています。選手はルールに従って勝利を志向して動いているので創作的な表現とはいえないということと思います。もっとも、フィギュアスケートの振付のようなものは著作物性を認める余地があるとされています。例えば、元フィギュアスケート選手の町田樹さんは、フィギュアスケートの振付の著作物性を肯定する方向で議論を展開しておられます。このように、芸術性のあるスポーツの著作物性については議論があるところです(なお、町田樹選手は早稲田大学で博士号を取得されて、現在は國學院大學で准教授を務めておられます)。サッカーの試合であれば試合そのものの動きに著作物性があるとはいえないでしょう。
次に、②スポーツ中継の映像が著作物になるのかということですが、こちらは肯定的に考えられています。つまり、スポーツ中継の映像はカメラアングルなどの撮影方法(誰をどの角度から映すのか)や編集方法(各アングルの画像の組み合わせなど)に創作性があるためです。ですから、やはりスポーツ中継を上映するといった場合には著作権の問題を検討しなければなりません。
そうすると、スポーツ中継をお店で流した入りするのは難しいようにも思われます。ただ、著作権法に例外規定があって、通常の家庭用受信装置を用いるのであれば、営利目的があっても、著作権者の許諾なしに上映することができるとされています(著作権法38条3項後段)。ラーメン屋さんなどでテレビが置いてあっても、この規定があることで著作権侵害にはならないのです。ワールドカップの中継についても同じことです。ただし、通常の家庭用受信装置を用いなければなりません。どこまでが「通常の家庭用」なのかははっきりしないのですが、近時は家庭用のテレビもかなり大型化していますので、それなりに大きい画面でも許されるのではないかと思います(個人的な見解です)。なお、この規定は、テレビで放送される中継をそのまま流す場合に限られます。ストリーミング配信は含まれませんし、録画して流すのもダメです。
また、テレビ局には著作隣接権という権利があります。あまり馴染みのない言葉ですが、著作物の公衆への伝達に重要な役割を果たしていることからテレビ局(放送事業者)に認められている権利です。放送事業者の著作隣接権のなかに、「テレビジョン放送…を受信して映像を拡大する特別の装置を用いてその放送を公に伝達する権利」があります(同法100条)。ですから、大型ビジョンのようなものを用いてパブリックビューイングをするのには、著作隣接権との関係でも権利者の許可が必要になります。「映像を拡大する特別の装置」が何なのかもはっきりとはわからないのですが、NHKのウェブサイトには、「影像を拡大する特別の装置(大型ビジョン、デジタルサイネージ等の大型ディスプレイ、またはプロジェクター等で投影する大型スクリーンなど)を用いて放送を同時公開(ライブ公開)するためには、NHKの許諾が必要です」と書かれています。その一方で、「家庭用受信装置(家電量販店等で購入できる市販のテレビ画面)を用いて放送を公開する場合は、NHKの許諾は必要ありません」とされています(NHK「パブリックビューイングの申請について」(https://www.nhk.or.jp/nijiriyou/public.html、2026年6月13日最終閲覧))。はっきりとはしませんが、著作隣接権との関係でも家電量販店などで購入できるテレビにとどめるべきといえそうです。
このように著作権法との関係では、家電量販店などで購入できるテレビであれば、お客様などに放映させても問題がなさそうです。ただ、もう一点注意すべきことがあります。風営法の特定遊興飲食店営業に該当する場合には許可を得なければなりません。スポーツバーなどのようにお酒類を提供して、深夜にワールドカップ中継を上映しようと考えているのであれば、許可を受けることを検討しなければなりません。特定遊興飲食店営業は、「ナイトクラブその他設備を設けて客に遊興をさせ、かつ、客に飲食をさせる営業(客に種類を提供して営む者に限る。)で、午前6時後翌日の午前零時前の時間においてのみ営むもの以外のもの(風俗営業に該当するものを除く。)をいう」と定義されています(風営法2条11項)。このなかでは「客に遊興させ」るの要件が難しいところですが、「単にスポーツ映像を店舗内で流しているだけであり…これを見た客が各々勝手に応援等を行っているだけであれば、「客に遊興をさせ」る行為にはあたらないが、「客に呼び掛けて応援等に参加させる行為」が介在する場合には、「客に遊興をさせ」る行為に該当し得ることとなる」という見解が示されています(エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク編『エンターテインメント法務Q&A〔第2版〕』[川野智弘]355頁(民事法研究会、2019年))。とはいえ、このあたりは少し微妙なところもあるかもしれません。場合によっては、公安委員会に相談してもよいかもしれません。
少し長くなりましたが、スポーツ中継を上映するのには、以上のような点を考慮していく必要があります。ワールドカップに限らず、各種スポーツの観戦ができれば盛り上がるでしょうが、その法律的な側面にも興味をもっていただけると幸いです。