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交通事故での物損の消滅時効起算点

当事務所でも交通事故のご相談を受けることがあります。
ご存知の通り,交通事故では,自動車の修理代などの物損とお体の治療費などの人損とを請求することが多々あります。

ところで,物損と人損と別々に分けて考えてよいのでしょうか。もっと言えば,別々に時効で消滅することになるのでしょうか。この点に関して,債権法改正前の民法についてですが,最高裁の判決が言い渡されています(最判令和3年11月2日 民集第75巻9号3643頁)。ここでは,被害者の加害者に対する車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は,「被害者が,加害者に加え,上記車両損傷を理由とする損害を知った時から進行する」ものであり,「人的損害を含めた損害の全体を知った時からもとめて進行すると介する必要性はないと考えられる」とされています。わかりやすく言えば,物損と人損とは別々に消滅時効が進行するのです。

交通事故では,しばしば被害者の治療が終了するまで(症状固定に至るまで)相応の時間がかかることがあるのですが,その間にも物損の消滅時効は進行していることになります。なお,債権法改正後の民法では人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効の特例があるので,人的損害と物的損害とが被侵害利益を異にしており,別々に考えるべきことはより明らかになっているとも言われています(船所寛生「判解」ジュリスト1575号123頁(2022))。

いずれにしても,大きな交通事故などで治療に時間を要する場合には,早期に物損の示談や訴訟の提起を進める必要があるということになりそうです。

なお,蛇足ですが,同一の交通事故により生じた同一の身体障害を理由とする財産上の損害と精神上の損害とは,その賠償の請求権は1個であるという判例もあります(最判昭和48年4月5日民集27巻3号419頁)。慰謝料の補完的作用への配慮などと言われています(慰謝料で損害額を若干調整する意味合いです)。治療費や休業損害と慰謝料とは一体として考えるということですね。

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