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ハラスメント研修の実効性を高めるには?

【ハラスメント対策義務】
企業にハラスメントの対策義務が課されるようになりましたが、ハラスメントの予防のために研修を取り入れることも多いと思います。ただ、この種の研修を実効的なものとするのはなかなか難しいようです。

【米国の事例】
米国の差別問題を扱う連邦機関「雇用平等委員会」(EEOC)は2016年6月に「職場におけるハラスメントの検討に関する特別タスクフォース共同議長の報告書」を発表しました。その中で、セクハラ防止研修は効果を上げているとは言えないとされています[1]。

わが国でもいろいろと研修の工夫はされているようです。例えば、いわゆるe-learningは定着度テストで実効性をチェックできること等のメリットがあるとされますし、コンプライアンス研修には社長が出席すべきともいわれています[2]。さきほどのEEOCの報告書では「包括的」な研修が望ましいとされているようです。つまり、「企業のトップを巻き込んで企業文化全体を変えることが必要であるとされています」[1]。

【組織文化】
企業にはそれぞれの企業文化(組織文化)があります。組織文化とは、組織のメンバーに共有された、価値・意味・認識の体系などと定義されます。例えば、従来の日本型人事管理には労使が共同で長期て利益を作り上げるという価値観があると言われます[3]。このような共有された価値観があるとこで、① 意思決定のばらつきが減る、② 迅速な調整が可能になる、③従業員の自律性の高まりにより、仕事に対する貢献意欲が向上するなどのメリットがあるとされます[4]。

その一方で、前時代的な価値観がそのまま定着し続けていることもあります。男尊女卑的な価値観が共有されていればセクシャルハラスメントが起こることは必定でしょうし、モーレツ社員のような価値観が根強くあれば、パワーハラスメントにつながりやすいことは間違いありません。

【まとめ】
EEOCの報告書は、このような悪しき組織文化を改善していかなければ、問題の根本的な解決にはつながらないと言いたいのだと思います。組織文化の変革については、経営者の行動や判断がカギとなります。経営者がどのような行動をとったか、どんな人を幹部に昇格させてきたかなどは、従業員から常に観察されています[4]。

ですから、ハラスメント研修にあたっても、経営者自らが率先垂範して受講すべきであり、その姿勢を従業員にみせるべきなのだと思います。このような経営者の行動が、遠回りかもしれませんが、結果的にハラスメント研修の実効性を高めることになるのではないでしょうか。

 


[1] : 渡辺樹一=市川佐和子「セクハラ研修日米比較から考える研修の質」BUSINESS LAWYERSウェブサイト2021年8月4日(https://www.businesslawyers.jp/articles/1007,2025年6月4日最終閲覧)。
[2]: 木目田裕「効果的なコンプライアンス研修と企業風土」ビジネス法務2024年11月号12頁,13-14頁(中央経済社,2024)。
[3]: 平野光俊=江夏幾太郎『人事管理』[江夏幾太郎]21頁,41頁(有斐閣,2018)。
[4]: 高尾義明『はじめての経営組織論』120-126頁(有斐閣,2019)。

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