以前に、退職する従業員の守秘義務や競業避止義務について述べさせていただいたことがあります。では、肝心の秘密にすべき内容、競業を排除してでも守らければならない利益はどのように考えればよいのでしょうか。その根拠が合理的にできるようにすることが、裁判などにおいても非常に重要だと思います。
「他社には提供できないような利益を顧客にもたらすことができる、企業内部に秘めた独自のスキルや技術の集合体」のことを「コアコンピタンス」と呼びます[1]。このコアコンピタンスが企業の競争優位の源泉であり、他社に模倣されないよう厳重に守られるべきものです。何をコアコンピタンスとおくかは各企業で考えなければなりませんが、企業の内部環境分析ツールとしてよく挙げられるVRIOのフレームワークを用いると判断がしやすいと思います。また、このようなフレームワークに基づく説明は、上にあげたような説明に説得力をもたせることができます。
VRIOフレームワークは、人、モノ、資金、情報といった自社の経営資源や組織能力が、どの程度の競争優位を持つかを評価する内部環境分析ツールです。次のような観点から企業の内部的な資源を評価してみましょう。
- 経済価値(Value): 企業外部の環境に応じて利益をもたらすようなものでしょうか。あるいは、外部的な脅威を回避できる資源や能力でしょうか。
- 希少性(Rarity): また、それは競合他社がほとんど保有していない資源や能力でしょうか。希少なものであれば、大きな価値をもたらすことが期待できます。
- 模倣困難性(Inimitability): ただ、1及び2だけでは足りません。その能力や資源は他社が容易に模倣できないものでしょうか。あるいは、模倣に多大なコストがかかるものでしょうか。模倣困難であればこそ持続的な優位性をもたらすことができます。企業文化、複雑なプロセス、長年の経験から培われたノウハウなどは、特に模倣が困難とされます。また、模倣困難になるように知的財産として保護していく必要があります。
- 組織(Organization): 1-3のような資源や能力を、組織によって適切に活用することが重要です。言い換えれば、組織と適合性のある資源や能力でなければなりません。
企業としては、このような内部的資源をこそ重視していかなければなりません。そのために必要な情報を企業秘密として保持していく必要があるといえるでしょう。企業秘密とすべき内容を判断する際には、このようなフレームワークも参照されるとよいかと思います。
[1]: 久保田進彦=澁谷覚=須永努『はじめてのマーケティング[新版]』120-121頁(有斐閣,2013)