事業者の皆さまが消費者向けの営業でキャンセルポリシーを設定する際に、法的に注意すべき点について解説します。無断キャンセルは事業者にとって大きなリスクになり得ますので、約款などでキャンセルポリシーを定めていることも多いでしょう。ここでは、特にキャンセル料の設定についてご説明します。
キャンセルポリシーというと分かりにくいかもしれませんが、要するに、次のような決まりを作っておくことです。
【キャンセル料金】
前日・当日のキャンセルには、下記規定のキャンセル料が発生いたします。
前日(予約日1日前)キャンセル:ご予約いただいた施術料金の30%
当日キャンセル:ご予約いただいた施術料金の50%
https://totoco-net.com/blog/system/sy015/より引用
●キャンセル料は無制限に設定できるわけではない
消費者との契約においてキャンセル料を定める場合、「消費者契約法」という法律が適用されます。この法律の重要なポイントは、「事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分」のキャンセル料は無効とされる点です(消費者契約法第9条第1項1号)。
では、「平均的な損害の額」とは何を指すのでしょうか。これは、個々のキャンセルで生じた実際の損害額ではなく、同じような契約がキャンセルされた場合に生じるであろう損害の平均値を意味します。
重要なのは、これはあくまで自社(当該事業者)の損害の平均値であり、業界全体の平均ではないことです。キャンセル料を設定する場合に、他の事業者の金額(割合)と横並びにするのが楽なのですが、その金額が自社の事情に照らして適切なものなのかは、よく検討するべきです。
なお、キャンセルが出たとしても、すぐに代わりの顧客を見つけられるような代替性の高いサービスの場合、そのまま契約が続いていたら得られたはずの利益(逸失利益)は「平均的な損害の額」に含まれないと考えられています(例えば、挙式1年以上前にキャンセルした場合について、結婚式・披露宴による得べかりし利益を否定したケース(東京地判平成17年9月9日(判時1948号96頁))。
●キャンセル料の「算定根拠」を説明できますか?
先ほど、平均的な損害の額の意義について説明しましたが、2022年に改正された消費者契約法では、事業者に対し、消費者から求められた際には、キャンセル料の算定根拠の概要を説明する努力義務が課されました(同法第9条第2項)。これはあくまで「努力義務」であり、説明しなかったからといって直ちに法的効果が発生するわけではありません。とはいえ、消費者から問い合わせに対して根拠を全く説明できないと、平均的な損害の額を超える高額なキャンセル料ではないかと評価されるおそれはあるでしょう。
●事業者として準備しておくべきこと
したがいまして、キャンセルポリシーを設ける際にはキャンセル料の算定根拠を明確にして、なぜその金額なのか、内訳(例:材料費、人件費、代替顧客獲得のための費用などでしょうか)を整理し、客観的な根拠を準備しておくべきでしょう。いずれにしても、キャンセル抑止のために、キャンセル料を高額にするのは慎まなければなりません。
参考資料など
消費者庁「逐条解説 消費者契約法 」154-157頁(2023年)。
安達敏男ほか『第2版 消費者法実務ハンドブック 消費者契約法・特定商取引法・割賦販売法の実務と書式』104-110頁(日本加除出版、2021年)。