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カスタマー・ハラスメント防止条例(改正法との違い)

2025年6月4日に、労働施策総合推進法の改正案が可決されました。この改正法は、カスタマー・ハラスメント対策を事業主に義務付ける内容になっています。改正法の施行日は未定ですが(早ければ2026年10月頃)、事業主はそれまでに会社内の体制を整備することなどが求められます。

ところで、この改正法に先立ち、東京都では東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が制定されて、既に施行されています。当地岡山市でも来年2月の市議会でカスタマー・ハラスメント防止条例を制定しようという動きがあります。

カスタマー・ハラスメントが許されるべきでないことは、特に異論はないでしょうが、法律に加えて条例を設けることにどのような意味があるのでしょうか。東京都の条例と労働施策総合推進法を比べてみたいと思います。

大きな違いは、労働施策総合推進法が主として事業主に対してカスタマー・ハラスメントに適切に対応するための体制整備など必要な措置を講ずることを求めるとどまることです(改正法33条1項)。顧客等(カスタマー)を名宛人とする規定もありますが、顧客等はカスタマー・ハラスメントについて関心・理解を深めて、就業環境を害することのないよう、必要な注意を払わなければならないというような定め方になっています。

これに対して、東京都の条例(第4条)では、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と明確にカスタマー・ハラスメントが禁止されています。つまり、東京都ではカスタマー・ハラスメントを行うと、条例違反ということになるのです。条例違反に対しての罰則の定めはありませんが、不法行為として民事上の損害賠償請求をしやすくなるかもしれません。

もっとも、「東京都カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル」にもあるように、カスタマー・ハラスメントに該当する行為のすべてが違法というわけではないでしょう。その意味で、条例の明確な禁止規定によりはっきりした法的効果が発生するわけではありません。ただ、メッセージ性は明らかですから、カスタマー・ハラスメントに対する一定の抑止効果が期待できるとは思います。

そのように観点から、労働施策総合推進法に加えて条例を設けることに意味はあると考えられます。なお、せっかく条例を作るのであれば、罰則なども設けて、カスタマー・ハラスメントを厳しく取り締まればよいのではないかとの意見もあるかもしれません。

しかし、カスタマー・ハラスメントが何なのかをはっきり定義するのは困難です。正当な権利行使との境界は曖昧です。カスタマー・ハラスメントを厳しく規制することで、顧客等の「正当な」権利行使が不当に抑止されてしまっては元も子もありません。また、何が刑罰にあたる行為なのかは明確でなければなりません。カスタマー・ハラスメントの定義が不明確なままでは、罰則を設けることはできません(憲法違反になりかねません)。東京都が罰則を設けていないのは、そのことも理由と思われます。当地岡山の条例でも罰則の導入は見送る方針とのことです。

この機会にどのような行為までカスタマー・ハラスメントに該当するのかを考えてみるのもよいかもしれません。

「岡山市議会がカスハラ防止条例骨子素案 撲滅月間を全国初設定、罰則の導入は見送り」(2025年8月28日、山陽新聞デジタル版)(https://www.sanyonews.jp/article/1783904?kw=%E3%82%AB%E3%82%B9%E3%83%8F%E3%83%A9&t=1756420063182)。

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