最近は下請法の取り締まりが強化されているようで、各種報道で下請法違反の事案をみることが多くなりました。先日も、ヨドバシカメラがPB製品の製造委託先などに対して、販売奨励金などの名目で本来の下請代金を不当に減額していたという報道がされています。
「公取委がヨドバシカメラに勧告へ 下請法違反の疑い 本来の代金から不当に支払い減額」テレ朝NEWS 2025年9月4日(https://news.yahoo.co.jp/articles/ab1e6c3eff42ebeecba3ef0831ac9d01c0483d15,2025年9月5日最終閲覧)
現時点では報道で知る以上の詳細は分からないのですが、下請法4条1項3号(現行法)の「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」に該当するという判断のようです。
「我が社では下請代金を勝手に減額することはない!」と思われるかもしれませんが、この辺りは少しわかりにくいので意図せず下請法違反になってしまうこともあるのだと思います。下請法の解説書[1]では、下請代金から一定比率を値引くことをあらかじめ合意して発注する場合でも、3条書面に記載された下請代金をそのまま変更しなければ、減額として問題になるとされています。つまり、3条書面に値引後の下請代金の額を反映させておかなければならないのです。
また、いわゆるリベート、インセンティブ、割戻金というものも下請法違反になるおそれがあります。上記の報道では販売奨励金として一定額を差し引いていたということですから、このあたりが問題視されたのでしょう。
下請法運用基準3(1)ケでは、「毎月の下請代金の額の一定率相当額を割戻金として親事業者が指定する金融機関口座に振り込ませること」は下請代金の減額に該当すると明記されています。ただし、例外として、ボリュームディスカウント等合理的理由に基づく割戻金は書面化するなどの一定の要件のもと下請法違反にならないとされています(要件については、運用基準3(1)ケをご参照ください)。
書面化などであれば何とかなりそうなのですが、「合理的理由」というのがなかなか難しいようです。前掲の解説書[1]では、ボリュームディスカウントについては、ボリュームの設定及び割戻金の設定に合理性が必要とされます。要するに、割戻金の支払いにより単価が下がることになっても、発注数量の増加により単位コストが下がり、下請事業者の利益の増額が見込めることが必要ということです(詳細は前掲解説書をご確認ください)。下請事業者の原価まで考慮に入れるとなると、なかなか合理性の説明は難しそうです。
また、合理的理由に基づく割戻金としてはボリュームディスカウントしか考えられないともされていますので[1]、なかなか割戻金などを設定するのは難しいのです。下請法の適用対象になる取引については、このあたりを慎重に検討しなければなりません。
[1]: 鎌田明『下請法の実務[第4版]』134-137頁(公正取引協会,令和3年)