このところ、シャインマスカットのニュージーランドでの栽培についての報道が話題になっています。
実は、シャインマスカットが中国や韓国に流出して大量に生産されているというのは、以前から問題視されていました。どの程度正確なものか分かりませんが、農水省はわが国の損失は100億円を超えると試算しているようです。それに加えて、今度はニュージーランドでも生産というのだから、けしかんらん、という論調になるのは分からないでもありません。
ただ、植物の品種については品種登録がされなければ保護されません。日本では種苗法という法律により、その要件などが定められています。品種登録を受けることにより、初めて無断の栽培などを差し止めることができます(育成者権という権利が発生します)。ちなみに、シャインマスカットは国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が品種登録を受けています(育成者権者といいます)。
今回の騒動でしっておかなければならないのは、この品種登録を各国ごとに受ける必要があることです。国際的にはUPOV条約「植物の新品種の保護に関する国際条約」が締結されており、2023年9月時点で全世界の78の国と地域が加盟しているということです。UPOV条約加盟国では日本と同じような植物新品種の保護のための法制度があります(厳密には、 78年条約と91年条約で少し違うのですが、そこはおいておきます)。
シャインマスカットについては、中国や韓国で品種登録を受けていなかったのです。そのため、日本のシャインマスカットが栽培されても、法的な手段をとることができなかったのです。ニュージーランドもUPOV加盟国ですが、そこで品種登録を受けてはいないと思います(確認はしていないのですが…)。そうだとすると、ニュージーランドでのシャインマスカットの栽培を違法なものとして差し止めることは難しいのでしょう。
その意味で、ニュージーランドへのライセンスという今回の報道には違和感を感じます。もともと、ニュージーランドで品種登録を受けていないのであれば、その栽培の権利をライセンスすることもできないはずです。小泉農林水産大臣の令和7年9月26日の記者会見概要によると、「適切な契約のもとでの、海外ライセンスは日本のシャインマスカットの正当性を主張する一つの手段であって、方向性は基本計画に位置付けられ」ているという趣旨のコメントがあります。農林水産基本計画(令和7年)87-88頁には、「こうした海外展開を行う我が国優良品種の競争環境を守るため、海外流出・無断栽培の抑止と国内管理の徹底に向け、関係者の意識向上のほか、海外出願の考え方や基準の整備を進める。あわせて、品種の流出リスクが高い国における監視・侵害対応を許諾先に担わせることを目的とした防衛的な海外ライセンスに向けた条件整備も進める。」という記載がみられます。
このことからすると、おそらくは、ライセンスというのは、本来あるべき品質のシャインマスカットを生産するためのノウハウを提供する契約とでもいうものであり、それにより、生産者を限定し(流出を抑止し)、劣悪品によるブランド価値の劣化を防止するという意味があるのではないかと思います。そのまま放置して多数の生産者がシャインマスカットを作り始めると、品質もコントロールできませんし、苗木がどこに行くのかも分かりません。少し感情的な報道に流されて説明が難しくなっているのかもしれませんが、ライセンスの意図するところについては、より具体的に説明されるべきではないかと思います。