前回、シャインマスカットの保護に関するコメントを書きました。今回は、そのような品種を保護するための種苗法に関して書いてみようと思います。
植物の新品種を保護するためには、言い換えれば、無断で利用されないようにするためには、種苗法に基づいて品種登録を受けなければなりません。品種登録を受けると育成者権という権利が発生して、第三者の無断利用を差し止めることができるのです。すなわち、育成者権者は、登録品種及び当該登録品種と特性により明確に区別されない品種を業として利用する権利を専有する、とされているのです(種苗法20条1項)。
ところで、種苗法では「現物主義」と呼ばれる考え方が採用されていて、育成者権の権利範囲は登録品種の現物の特性により決まるとされています。「現物主義によれば、被告の利用する品種(対象品種)が原告の登録品種と同一又は重要な形質に係る特性により明確に区別されないか否かの判断に当たっては、登録品種と対象品種の植物体自体を比較すべき」とされます(髙部眞規子編『知的財産権訴訟Ⅱ 最新裁判実務大系』929-930頁[中嶋邦人](青林書院、2018年))。
この考え方によれば、育成者権侵害を主張する側(つまり、原告)が比較栽培などにより、相手方の品種が特性において明確に区別されないことを証明しなければなりません。ただ、これでは育成者権者の負担が大きいということで、令和2年の法改正により特性表による推定ができることになりました。品種登録に際しては品種の特性を記録した「特性表」というものがつくられるのですが、その特性表と相手方の品種が特性において明確に区別できなければ、育成者権が及ぶ品種であることを推定できるというものです(種苗法35条の2)。
このような推定が及ぶことになれば、被疑侵害者において現物の特性が異なることを証明していかなければなりません。いずれにしても、現物主義は変わらないのですから比較栽培が必要になる場合は多いのでしょう。なお、農研機構種苗管理センターで品種類似性試験などを行うことができるようです。農研機構には品種保護Gメンという品種保護活用相談窓口があり、育成者権侵害対策にかかる相談受付・助言、情報収集提供、品種類似性試験の実施、証拠品の寄託などの業務を行っているとのことです。