先日、「法律書の「デジタル図書館」を提訴 出版社「著作権侵害」を主張」という報道がありました。著作権法では「特定図書館等」は、「その営利を目的としない事業として、当該特定図書館等の利用者…の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分…について」、PDFファイルなどを送信できることになっています(著作権法31条2項)。出版社らは、営利を目的としているので、この要件を満たさないと主張しているようです。
提訴された私設図書館のウェブサイトや代表理事のXの投稿などをみたところ、個人が利用するには、月額9,800円+税 ×12ヶ月分の会費が必要で、1回の申請につき250円+税の事務手数料が必要とのことです。また、著作権法では権利者に補償金を支払うことになっていますので、これに補償金が上乗せされます。同図書館は補償金の支払いのため一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB)に登録しています。補償金の支払いなどは適法に行われているはずです。
ただ、SARLIBへの登録が免罪符になるわけではないので(特に審査などがあるわけではないようです)、結局、営利目的かどうかということが問題になりそうです。
こちらの図書館は検索等によりヒットした書籍中の文言を中心に4行程度をスニペット表示して読みたい本を探すことができるということです(著作権法47条の5により認められると考えておられます)。そのうえで当該ページなどを閲覧したいと思ったら、PDFファイルの送信を依頼できるようになっているようです。このような仕組みが国会図書館などに対する優位性ともいえそうです。当該システムを構築・維持するのに月々9,800円がどうなのかということになるのでしょうか。
これ以上は分かりませんが、地方在住の身として図書館資料のPDFファイル送信は画期的に便利になると思っていました。ただ、これまでのところ、こちらの私設図書館はもちろん、国会図書館のPDFファイルの送信を利用したこともありません。というのは、補償金が非常に高額だからです(https://www.sarlib.or.jp/wp-content/uploads/2023/05/sarlib-hoshokinkitei.pdf)。国会図書館ではPDFダウンロードの料金シミュレーションができますが、例えば、法律雑誌の論文18ページをPDFで送信してもらうとすると3,548~4,518 円という金額がでてきました。バックナンバーがあれば購入したほうが安くなりそうです。また、郵送受取であれば514~2,178 円となるので、郵送でお願いをしたほうがリーズナブルです(そして、忘れたころに到着します…)。国会図書館に関していえば、手数料としてもPDFのスキャンに83.60円/コマということです。ちなみに、モノクロ複写は28.60円/枚です。複写のほうが明らかに安くなります。上記私設図書館は1回の申請につき250円+税の事務手数料ですので、4ページになればこちらのほうが安くなりそうです。
余計な話が長くなってしまいましたが、このような電子化のサービスは地方では非常に便利だと思っています。ただ、補償金の金額などからすると利用しにくいのが現実ではないでしょうか。国会図書館には利用実態などを公表してもらえればと思います。著作権者の利益を守ることは重要ですが、ユーザーの負担とバランスがとれているのか検討の余地はあるのではないでしょうか。