レコード会社や歌手・演奏家に著作権法上の新たな権利を付与する方向で検討が進められているようです。早ければ2026年の通常国会に著作権法の改正案を出す予定ということです。
ひとまず、歌手・演奏家に絞って考えてみます。歌手、演奏家などは、著作権法では「実演家」とされています。実演家には、録音・録画権、放送・有線放送権、送信可能化権(簡単にいうとネット上にアップロードする権利)などが認められています。ただ、レコード演奏権のような権利は認められていません。もっとも、実演家の録音した商業用レコードを用いて放送・有線放送をするとそれに対しての報酬を請求できるようになっています。
実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約では、商業用レコードを用いての演奏行為全般について、報酬請求権を認めることになっています(同条約15条1項)。わが国では、その適用を一部留保して(同条3項)、商業用レコードを用いて放送・有線放送をした場合にのみ、報酬請求権が発生するものとしていました。
今回の報道で議論に上がっているのは、この留保を外して、商業用レコードを用いた公の演奏行為全般に報酬請求権を認めるようにしようということのようです(レコード演奏・伝達権)。つまり、放送や有線放送だけでなく、商業用レコード(要するにCD)をBGMとしてレストランなどで再生する行為に対しても報酬を請求できるようにするということです。
もともと、わが国で条約の適用を一部留保していたのは、だいぶん前に存在していた著作権法附則14条との兼ね合いがあったからのようです。著作権法附則14条は適法に録音されたCDなどを公に再生しても著作権侵害にならないというものでした(実演家の権利ではなく、著作権者の著作権侵害を問題にしています)。著作権侵害にならないのに、実演家の権利の侵害になるのはおかしいだろうという理屈なのでしょう。
とはいえ、著作権法附則14条は平成11年の法改正で廃止されています。したがって、現在ではこのような考慮をする必要はないわけです。文化庁の文化審議会著作権分科会政策小委員会(第1回)の資料によれば、「レコード演奏・伝達権」の法制化が必要な理由の狙いは、日本のアーティストの海外進出のインセンティブないしは支援というところにあるとのことです。日本の音楽は海外でも広く聴かれていることはご存じの通りですが、日本にレコード演奏・伝達権がないので、海外から対価を得ることができないのだとされています(相互主義)。
この点については異論がある方は少ないでしょう。ただ、店舗でBGMを流すとすると、ラジオ放送、有線放送(音楽有線放送も含まれます)などが多いような気がします。また、実演家は先述の送信可能化権がありますのでCDのアップロードを禁止することはできます(そもそもYou Tubeなどを店舗のBGMとして使用することは利用規約違反です)。そうすると、レコード演奏・伝達権が対象にするのは店舗でCDを再生するような行為にとどまるような気もします。近時はCDを再生しているお店もあまりないような印象もありますが、どうなのでしょうか。文化庁ではかなり大きな経済的効果を見込んでいるようにも読めるので、私の理解が不十分なのかもしれませんが…
いずれにしても、国際調和をすすめるという点からも法改正はあり得る方向でしょう。ただ、報道にもあったように、レコード利用者との調和も考えながら、検討をすすめていただきたいと思います。