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ライバー移籍の制限等に公取委が注意

先日の報道で、公正取引委員会がライバー事務所に対して、独占禁止法第19条(不公正な取引方法第12項(拘束条件付取引)又は第14項(競争者に対する取引妨害))の規定の違反につながるおそれがあるものとして注意を行ったというものがありました。

ライバー事務所は、マネジメント契約で

  1. ライブ配信活動を行うことの禁止
  2. 他のライバー事務所との間でマネジメント契約を締結することの禁止
  3. 自社と同種の事業を営むことの禁止

といった内容の規定を設けていたとのことです。公正取引委員会は、営業秘密等の漏えい防止の目的の達成のために合理的な必要性かつ手段の相当性が認められないにもかかわらず、所属ライバーの契約終了後の事業活動を制限する内容の規定を設けており、それにより公正かつ自由な競争に影響を及ぼすおそれがあるとしています(詳細は公正取引委員会ウェブサイト「(令和7年12月9日)ライバー事務所を運営する事業者に対する注意について」を参照、2025年12月13日最終閲覧)。

近時は、この種の芸能事務所などのマネジメント契約が問題になることも多く、公正取引委員会は「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」(令和7年9月30日)なるものを公表しています。ここでは、今回挙げたような活動制限を競業避止義務等として、原則として、契約でこのような規定をしてはならないとしています。そのうえで、例外的に営業秘密等の漏えい防止の目的の達成のために合理的な必要性かつ手段の相当性が認められる範囲で課されるのであれば、競争促進効果があるので許容されうると書いてあります(同第2 2 競業避止義務等の規定(11-12頁))。今回の「注意」も同指針にそったもののようです。

公正取引委員会としては、今回のような拘束を課すことで、他のライバー事務所又は新たに立ち上げるライバー事務所の取引機会が減少することを弊害としてとらえています。つまり、ライバー事務所間における自由な競争に悪影響を与えるおそれがあるということです。これに対して、(一定の場合には)営業秘密の保護等により競争促進効果があるので、公正かつ自由な競争に影響は生じないと考えるようです。

もっとも、この点に関しては、一般的なライバー(タレント)は個人として職業選択の自由や営業の自由があるので、それと芸能事務所の正当な利益との調整という方向からみたほうが座りがいいような感じはします(ライバー事務所間の自由競争秩序というよりも)。(なお、公正取引委員会の指針などが公正かつ自由競争に関するものになるのは当然のことではあります。)

また、芸能事務所の対抗利益も営業秘密というよりも、先行投資の回収の利益になることが多いかもしれません。なお、知的高判令和4年 12 月 26 日令和4年(ネ)第 10059 号では、芸能事務所側からそのような主張がされているのに対して、裁判所は簡単な理由付けで職業選択の自由ないし営業の自由を制約するものなので公序良俗に違反すものとして無効と判断しています。

とはいえ、芸能事務所が莫大な先行投資をすることは間々あることでしょうから、なかなか難しい問題ではあるようです。近しいところですと、スポーツチームの移籍制限があります。公正取引委員会は、「スポーツ事業分野における移籍制限ルールに関する独占禁止法上の考え方」(令和元年6月17日)を公表していて、ここでは、選手の育成費用の回収可能性を確保することにより、選手育成インセンティブを向上させる、チームの戦力を均衡させることにより、競技(スポーツリーグ、競技会等)としての魅力を維持・向上させることから、一定の場合には許容されるとみているようです。

個々のライバー(タレント)の利益と芸能事務所側の利益とをどのように調整するのかは難しい問題ですが、少なくとも、ライバー(タレント)の利益を過剰に侵すようなことのないようにすること、双方の理解と納得のうえでの契約とすることなどが求められているのではないでしょうか。

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