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生成AIプリンシプルコード(案)とその実効性

内閣府知的財産戦略推進事務局より「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)」(以下では「生成AIプリンシプルコード案」とします。)について、パブリック・コメントが募集されて話題になっていました(既に募集期間は終了しました)。

生成AIプリンシプルコード案は、近時いろいろと話題になっている、生成 AI と知的財産権等との関係を調整するべく制定が検討されているものです。生成AIに関して法律により規制するのではなく、いわゆるソフトローにより調整を図ろうというもののようです。

ソフトローは法的な強制力があるわけではありませんが、事実上の効果や影響力を及ぼすものと考えられます。生成AIプリンシプルコード案では、コンプライ・オア・エクスプレインという手法が採用されています。コンプライ・オア・エクスプレインというのは、原則(プリンシプル)に従うか、(オア)従わないのであれば理由を説明せよ(エクスプレイン)、というものです。このような説明を促すことで原則を守らせることが期待されるのです。

生成AIプリンシプルコード案には、3つの原則があります。既に多くの説明がされているでしょうから、ごく簡単にまとめると、①生成AIの概要や知的財産の保護措置の内容を開示する原則、②著作権者などが著作権侵害訴訟を提起する場合などに、その求めに応じて生成AIの学習データを開示する原則、③生成AIのユーザーが著作権侵害などの疑念をもった場合などに、その求めに応じて生成AIの学習データを開示する原則、といったところです。①はウェブサイトなどでの一般的な開示を想定しており、②及び③は個々の求めに応じての開示を想定しているようです。

詳しくは分かりませんが、仄聞する限りでは、生成AI事業者としては②③について濫用的な開示請求が行われることを懸念しているようです。その一方で、新聞協会の意見ではソフトローでは実効性に問題があるのではないかとの懸念も示されています。

ソフトローについては明確な定義があるわけではありませんが、事実上の効果や影響力を有するかどうかが基準になるとも言われます。このような事実上の拘束力は、主として、①他者からの圧力(白い目で見られるとか、市場を通じて損失を受けるなど)、② ネットワーク効果(会計基準のように利用者が増えれば、その基準を採用せざるを得ない)、③正当性の認識(一定の手続に則ってルールが形成されたなど)が複合的に混ざり合って発生するということです。飯田高「ソフトローとは何か」法学教室497号10頁(2022))。

こういった観点からみると、コンプライ・オア・エクスプレインの手法により、①の市場の圧力に期待するとともに、公的機関が定めることで③の正当性の認識をもたらそうというもののようにみえます。さらに、政府は生成AIプリンシプルコード案を遵守した場合のインセンティブを付与することも検討しているようです。このように考えると、ソフトローとしての拘束力は相応に強いものとはいえるのでしょう。

とはいえ、現実には、エクスプレインとしてどの程度の内容が社会的に求められるかにより、実効性の程度は変わってくように思います。生成AIプリンシプルコード案では、「本原則を実施する体制構築ができていないことを述べるだけでは…不十分」であり、「事業者としての事業規模等を勘案しつつ、当該体制構築が完了する時期を適切に説明する」ことを求めています。また、コンプライする場合でも、生成AI事業者の運用により開示の実効性は変わってくるはずです。原則2及び原則3については、請求に対する開示状況などを示すことまでは求められてませんので、コンプライした生成AI事業者によっても対応が異なってくることはあるでしょう。

生成AI事業者の濫用的な開示請求の懸念も頷けるものですので、著作権者等の権利者やユーザーとのバランスをどのように調整するのかは悩ましい問題です。各所から大量のパブリック・コメントが提出されているはずですので、それも踏まえて、生成AIプリンシプルコード案が修正等されるはずです。今後の動向には要注目です。

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