「種苗法の一部を改正する法律」が第221回国会で成立しました。改正法の施行日は令和8年12月1日です。ただし、後述する次の2点については公布の日(令和8年7月24日)から施行されています。施行日が間近に迫っているので改正内容を整理しておきます。
今般の改正の背景には、わが国で育成された品種が海外に流出し、流出先国や第三国から収穫物が流通していることが挙げられています。また、ブランド価値を有する登録品種が存続期間の満了を迎えることや、育成者権の行使に関する立証の問題なども課題となっていたようです。こうした状況を受けて、育成者権の保護強化を図るための改正法案が内閣提出法案として国会に提出されました。
1. 育成者権の存続期間の延長
育成者権の存続期間が、原則25年から35年へ、永年性植物については30年から40年へ延長されました(種苗法19条2項(以下、種苗法は省略します))。先ほど述べたように、ブランド価値のある登録品種が存続期間満了を迎えつつあることが背景にあります。
そして、この改正法は公布日(令和8年7月24日)に既に施行されています。その時点で存続期間が満了していない品種は延長の対象となります(既に存続期間が満了したものが復活するわけではありません)。
報道によれば、例えば、かんきつ「せとか」や梨「あきづき」などが年内に存続期間満了を迎える予定でしたが、今回の法改正により、なお育成者権の行使が可能な状態が続くことになったということです。
2. 出願品種の輸出差止制度
今回の改正の目玉は、品種登録前の段階であっても、出願人が出願品種の輸出に対して差止請求をすることができるようになったことです(14条の2)。言うまでもなく、わが国で育成された品種の海外流出を抑止することが狙いとなります。品種登録についての審査には時間がかかりますので、審査中に海外に持ち出されてしまう事態を想定しているようです。
ただし、出願人による輸出差止には次のような要件が課されます(同条1項)。
また、差止請求権の濫用を防ぐために、出願品種が品種登録に至らなかった場合には、差止請求権は初めから生じなかったものとみなされ(同条4項)、出願者は権利行使により相手方に与えた損害を賠償する責任を負うこととされています(同条5項)。一読する限り、輸出差止請求権のハードルは、それなりに高いようにみえます。
なお、後述する優先審査制度(15条の2)が創設されたことにより、早期に登録してもらい育成者権に基づく差止請求権を行使するという方法も考えられます(ただし、栽培審査などもあるでしょうか、どの程度早期化するのかはよく分かりません)。
3. 海外での譲渡と消尽の不成立
この改正は海外流出というよりも海外での生産を想定してのことと思われます。直接の関係はないかもしれませんが、昨年、農水省がシャインマスカットの栽培権をニュージーランドに付与する方向で検討していることに対して、山梨県が抗議をしたという報道がありました。この報道にあるように、政府としては日本の品種を海外にライセンスして栽培させることを考えています。
今回の改正で「日本国外」で育成者権者やライセンシーにより登録品種の種苗や収穫物などが譲渡されても、わが国の育成者権は消尽しないことになります。消尽というのは、商品などの円滑な流通のために、特許などの知的財産権の権利者がいったん適法に流通においたら、その後の権利行使が認められなくなるという理屈です。現行の種苗法でも、育成者権者の行為等により登録品種の種苗・収穫物・加工品が「譲渡」されたときは、その後の利用には育成者権の効力が及ばないと規定されています(21条2項)。今般の改正により、権利の消尽が生じる譲渡は「日本国内」における譲渡に限られることになります。
例えば、登録品種を海外にライセンスして現地で収穫物を生産し、それを第三者に譲渡した場合でも、それが日本に輸入されるときに育成者権侵害とすることができることになります(育成者権者自らが生産しても同じです)。踏み込んで書いてしまうと、ニュージーランドでシャインマスカットがライセンス生産されても、その逆輸入を止めることができるということです。海外でのライセンス生産による安価な農産物の還流を防止して、国内生産者を保護しようという狙いと思われます。
4. 輸出目的保管の規制
海外流出の防止に関しては、令和2年の種苗法改正でも手当がされていました。上で説明した育成者権の消尽の例外として、出願者が指定した国(指定国)以外への輸出行為をやめさせることができる制度が設けられていました。「指定国」は、出願品種の保護が図られないおそれがない国を出願者が指定するものです。二重否定になっているので分かりにくいのですが、要するに、適切に保護してくれると見込まれる国を指定国としておき、それ以外の国への輸出を制限することができるようになっていたのです。消尽の例外というのは、育成者権者が国内で種苗などを譲渡したとしても、指定国以外の国への輸出に関しては、消尽の例外として育成者権を行使することができるという意味です。
今般の改正では、その輸出に関しての保護の実効性を高めるために、その前段階の輸出目的での保管を消尽の例外に追加しています(21条の2)。また、登録品種につき品種の育成に関する保護を認めていない国(21条2項)への輸出目的での保管についても、育成者権の効力が及ぶようになります。
出願者がアメリカ合衆国を指定国とした場合を例としてみると、育成者権者が国内で種苗を第三者に譲渡したとして、その第三者ないしは転得者がアメリカ合衆国以外の国からオンラインで注文を受けて、その種苗を輸出するために倉庫で保管していたとしたら、その行為は育成者権の侵害となるわけです。
5. 登録品種の名称に係る推定規定
ここまでは海外を想定した改正でしたが、そのほかにも複数の改正があります。まず、育成者権侵害の立証を容易化しようというものです。育成者権の侵害を証明するのは非常に難しいと言われています。この問題に関しても令和2年の種苗法改正で手当がされており、「特性表」と侵害が疑われる種苗とを比較することにより育成者権が及ぶ品種であることを推定できる規定が設けられていました。
今回の改正では、登録品種の名称を使用して譲渡された種苗は、当該登録品種の種苗であると推定されることになりました(35条の3)。種苗法では、登録品種の種苗を譲渡する場合、その名称を使用する義務があります(22条1項)。そこで、その名称を用いて種苗が販売されているのであれば登録品種であると推定してもよいであろうということのようです。
あわせて、登録品種の名称使用義務違反に係る過料が、10万円以下から20万円以下に引き上げられました(75条)。流通の場面で登録品種の名称をより確実に使用させようということでしょう。
6. 種苗の「貸渡し」を利用行為に追加
また、種苗の「貸渡し」が育成者権の対象となる利用行為となりました(2条5項等)。
育成者権の対象となる利用行為は、種苗・収穫物・加工品のそれぞれについて規定されています(2条5項)。収穫物および加工品については「貸渡し」が利用行為とされていましたが、種苗については「貸渡し」は利用行為とされていませんでした。これは、種苗の貸渡しが想定されていなかったからです。
ただ、海外では果樹の苗木等について所有権を留保したまま貸し渡す(リースする)方法が用いられているということで、こうした利用にも対処できるように、種苗の「貸渡し」が利用行為として追加されたことになります。
7. その他の見直し
このほかにも改正点がありますが、特許法などと横並びになったということのようですので、簡単な説明にさせていただきます。
(1)損害額算定規定の見直し(34条)
特許法と同様の規律とし、育成者権者が実施相応数量を超える数量または特定数量について許諾料相当額を損害額とすることができるとしています(34条1項2号)。また、いわゆるライセンス料額相当を損害額として請求する場合に、侵害があったことを前提に侵害者との間で合意をするとすれば得られたであろう対価、いわゆる侵害プレミアムを考慮できることとしました(同条4項)。
(2)品種登録出願における優先審査制度の創設(15条の2)
特許法48条の6と同様、出願者でない者が出願品種を利用している場合など、先に出願された品種よりも優先して審査できることとになりました。
(3)育成者権侵害訴訟における第三者意見募集制度(アミカス・キュリエ)の導入(37条の2)
特許権侵害訴訟にすでに導入されている第三者意見募集手続(特許法105条の2の11)と同様の制度を、育成者権等侵害訴訟にも設けるものです。
8. 今後の見通し
改正法附則は、施行後5年を目途として施行状況を勘案し、必要があると認めるときは規定に検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講じるとしています。施行状況をみてさらなる改正が行われる可能性もあります。また、国会での附帯決議により育成者権者の委託等を受けて登録品種の海外での保護や活用を行う育成者権管理機関に対する支援が求められています(育成者権管理機関については下記ウェブサイトをご参照ください)。種苗法をめぐる動向に引き続き注目していきたいと思います。
なお、本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言を目的とするものではありません。
神谷幸男「令和8年種苗法改正の概要」L&T113号42頁(2026)