NEWSお知らせ

フリーランス法の運用状況からみた発注者の注意すべきこと

1. はじめに

フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されてからもうすぐ2年が経とうとしています(施行日:令和6年11月1日)。フリーランス法違反の勧告事案や同法の運用状況などの情報が明らかになってきました。フリーランス法では、どのような事案が問題となっているのかをまとめてみました。

2. 取引条件の明示義務

2-1. 委託者に課される義務の全体像

前提として、フリーランスとの取引の適正化のためにどのような義務が課されているのかを確認しておきます。厳密に書くと書ききれませんので、おおまかな整理ということでご理解ください。フリーランスに対する委託者に課される義務は、おおむね、(1) 取引条件の明示義務、(2) 期日における報酬支払義務、(3) そのほか7つの禁止行為に大別できます。このなかでも特に基本的な事項は(1)の取引条件の明示義務です。いつまでに何をどのような対価で頼んだのかがはっきりしないと、(2)や(3)の違反行為があったのかなかったのかを判断するのが難しくなります(言った言わないになりかねません)。

【7つの禁止行為(5条)】
①受領拒否(5条1項1号)
②報酬の減額(同項2号)
③返品(同項3号)
④買いたたき(同項4号)
⑤購入・利用強制(同項5号)
⑥不当な経済上の利益の提供要請(5条2項1号)
⑦不当な給付内容の変更・やり直し(同項2号)
※禁止行為は、一定期間(1か月)以上継続する業務委託が対象です。

2-2. 明示すべき取引条件

ですから、フリーランスに対して業務委託をしたときには、直ちに書面または電磁的方法で取引条件を明示しなければならないとされています(フリーランス法3条1項、以下ではフリーランス法は省略します)。電磁的方法としてメールやSNSのメッセージ等を利用してもかまいません。ただ、口頭で伝えたというのはNGです。取引条件として明示すべき事項は以下のとおりです(3条1項)(公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/、2026年10月29日最終閲覧)。

【取引条件として明示すべき事項】
①発注事業者・フリーランスの名称
②業務委託をした日
③給付の内容
④給付を受領する期日/役務の提供を受ける期日
⑤給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所
⑥検査完了期日(検査をする場合のみ)
⑦報酬の額および支払期日
⑧報酬の支払方法に関すること(金銭以外の方法で報酬を支払う場合のみ)

明示義務のポイント
●取引条件の明示義務(3条)は、従業員を使用していない発注者(フリーランス同士の取引)にも適用されます。これに対し、期日における報酬支払義務(4条)や禁止行為(5条)は、従業員を使用している等の「特定業務委託事業者」(2条6項)が対象です。
●委託時点で内容を定められないことに正当な理由がある事項は、その内容が定まった後、直ちに明示すれば足ります(3条1項ただし書)。
●電磁的方法で明示した場合でも、フリーランスから書面の交付を求められたときは、遅滞なく書面を交付しなければなりません(3条2項)。

2-3. 明示がない場合の報酬の支払期日

取引条件の明示がなかった場合、あるいは⑦の報酬の支払期日が定められなかった場合には、フリーランスから給付を受領した日に報酬を支払わなければなりません(4条2項)。なお、報酬の支払期日は給付を受領してから60日以内の期間を定めなければならないのですが(同条1項)、この規定に違反した支払期日が定められた場合には(例えば、給付を受領してから90日後を支払期日と定めている)、給付を受領してから60日を経過する日が支払期日となります(同条2項)。

●こうして定まった支払期日までに報酬を支払う義務は、4条5項に定められています(後述の「4. 違反事例」で「期日における報酬支払義務違反」とされているのは、この規定の違反です)。
●元委託者から受けた業務をフリーランスに再委託する場合で、一定の事項を明示したときは、元委託の支払期日から30日以内に支払期日を定めることができます(4条3項)。

3. フリーランス法の運用状況

さて、フリーランス法の運用状況ですが、公正取引委員会より資料が開示されています。

公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況及びフリーランスに係る取引の適正化に向けた取組」(令和8年6月10日) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/jun/260610_FL.html(2026年10月29日最終閲覧)

これによれば、令和7年度(令和7年4月から令和8年3月)の違反被疑事件は1,626件、そのうちの処理件数は1,597件、勧告・指導の措置を講じたのは1,552件ということです。興味深いのは「違反行為の類型別件数」です。(1) 取引条件の明示義務違反が全体の41.3%、(2) 期日における報酬支払義務違反が全体の41.6%を占めています(合計で82.9%)。ほとんどの違反類型が(1)と(2)の義務違反なのです。まだ基本としての文書化・記録化(取引条件明示義務)は浸透していないようにみえます。また、(2)についても、取引条件が明示されていない結果、フリーランスから給付を受領した日が報酬の支払期日となってしまい(前述)、期日の報酬支払義務を履行できなかったというものが多いのではないかと思われます。

違反行為類型 件数 割合
取引条件の明示義務違反 1,126 41.3%
期日における報酬の支払義務違反 1,135 41.6%
受領拒否 0 0.0%
報酬の減額 103 3.8%
返品 0 0.0%
買いたたき 250 9.2%
購入・利用強制 3 0.1%
不当な経済上の利益の提供要請 30 1.1%
不当な給付内容の変更・やり直し 80 2.9%
報復措置 0 0.0%
合計 2,727 100.0%

前掲公正取引委員会の「第3表 フリーランス・事業者間取引適正化等法違反行為の類型別件数」

【数字の補足】
●措置1,552件の内訳は、勧告10件、指導1,542件です。
●類型別件数の合計は2,727件です(1件の事件で複数の違反類型が認められることがあるため、措置件数とは一致しません)。上記の割合はこの2,727件に対するものです。
●3番目に多いのは買いたたき(250件、9.2%)です。

4. 違反事例

そこで、いくつか勧告事案を調べてみました。勧告事案をざっと見た限りでは、やはり、取引条件が明示されなかった結果として期日の報酬支払義務も遵守できなかった事案が多いようです。有名な事案だけごく簡単に紹介します(簡略化していますので正確な内容は下記リンクよりご確認ください)。

4-1. 株式会社KADOKAWA

公正取引委員会「株式会社KADOKAWAに対する勧告について」(令和8年6月11日) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/jun/260611_kadokawa.html

KADOKAWAは、原稿の作成等の業務を特定受託事業者に委託していましたが、取引条件が(一部又は全部)定められておらず、給付を受領した日又は当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかったため、取引条件の明示義務違反及び期日における報酬支払義務違反とされました。

違反条項:3条1項(対象113名)、4条5項(対象113名)

4-2. 株式会社河合楽器製作所

公正取引委員会「株式会社河合楽器製作所に対する勧告について」(令和8年6月22日) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/jun/260622_kawai.html

河合楽器製作所は、音楽教室などでの消費者向けレッスンの実施などを委託していましたが、取引条件が(一部又は全部)定められておらず、その結果、報酬の支払義務も果たされていないとされました(そのほかにも違反行為はあります)。

違反条項:3条1項(対象100名)、4条5項(対象98名)、5条1項4号・買いたたき(対象28名。体験レッスンの報酬を、十分な協議なく通常レッスンより約33.9%〜72.3%低く定めたもの)

4-3. 日本郵便株式会社

公正取引委員会「日本郵便株式会社に対する勧告について」(令和8年9月2日) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/sep/260902_japanpost.html

日本郵便は、郵便物等の配達等の業務を委託していましたが、取引条件が(一部又は全部)定められておらず、同じように報酬の支払義務も果たされていないとされました。

違反条項:3条1項(対象167名)、4条5項(対象140名)

法律の規定上、取引条件の明示がされなければ報酬の支払義務違反につながりやすいことが表れているように思います。フリーランス法では取適法(中小受託取引適正化法)のように民事的な遅延利息の支払義務はないとはいえ、十分な注意が必要です。

取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律。令和8年1月1日施行)では、委託事業者が支払期日までに代金を支払わなかった場合、年14.6%の遅延利息を支払う義務があります(同法6条)。

5. まとめ

フリーランスに発注する側としては、あらためて取引条件が明示されているのかを確認しておくべきでしょう。相手がフリーランスに該当しない場合には、取適法の適用対象になる可能性もあります。もちろん、取適法でも取引条件の明示が求められています(同法4条)。

フリーランス法違反が発見されたのであれば、速やかに是正措置をとらなければなりません。取引条件の明示についていえば、発注書などの書式を事後的にでも準備するべきでしょう。フリーランス法違反をそのままにしておくと公正取引委員会からの勧告を受けて、企業名が公開されることもありますので注意が必要です。

勧告に従わない場合

勧告(8条)を受けた事業者が正当な理由なく勧告に係る措置をとらなかったときは、公正取引委員会はその措置をとるべきことを命令し(9条1項)、その旨を公表することができます(同条2項)。命令に違反した場合は50万円以下の罰金の対象となり(24条)、法人も処罰されます(25条・両罰規定)。

なお、公正取引委員会では、自発的申出制度を運用しています(法的な制度ではなく運用によるものです)。発注事業者が、自身のフリーランス法違反について、公正取引委員会に自ら申し出て、以下のような事由が認められた場合には、勧告を行わないとする制度です。場合によっては、このような制度の利用も検討するべきでしょう。

(1)公正取引委員会が当該違反行為に係る調査に着手する前に、当該違反行為を自発的に申し出ている。
(2)当該違反行為を既に取りやめている。
(3)当該違反行為によって特定受託事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置を既に講じている。
(4)当該違反行為を今後行わないための再発防止策を講ずることとしている。
(5)当該違反行為について公正取引委員会が行う調査及び指導に全面的に協力している。
出典:公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法違反行為を自発的に申し出た業務委託事業者の取扱いについて(自発的申出)」 https://www.jftc.go.jp/soudan/jihatsu/freelance.html(2026年10月29日最終閲覧)
条文:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
一覧へ戻る